紀元前360年、妹の婚礼に必要な品々を買い求めるため、羊飼いのメロスは、シシリー島のシラクサの町にやって来た。この町でひょんなことから、メロスは石工のセリヌンティウスと出会い、意気投合する。セリヌンティウスはシラクサの町で知らぬもののない有名な石工だったが、3年前から石を彫ることを止めて、酒びたりの生活を送るようになり、人を愛することもやめてしまっていた。そのことをセリヌンティウスの恋人・ライサと町の老人・カリッパスから聞いたメロスはセリヌンティウスという人間に興味を覚え、彼の作品が多く飾られている王宮へと足を踏み入れる。 しかし、作品に見惚れたメロスはうっかり、立ち入り禁止の区域にまで入り込んでしまう。メロスはたちまち衛兵に取り押さえられ、荷物の中に婚礼の儀式に使う剣があったことから、王の暗殺を企てた暗殺者に間違えられてしまう。シラクサの王・ディオニシウス2世から3日後の死刑を宣告されたメロスは、妹の結婚式に参加出来るよう、仮釈放を王に嘆願する。王が、仮釈放に伴うメロスの身代わりを要請した際、異変を察知し王宮に参内したセリヌンティウスがそれを申し出る。セリヌンティウスはそれまで失っていた、人を信頼する心を取り戻すため、メロスに命を賭けたのだった。 メロスはセリヌンティウスと王に、必ず3日後の日没までに戻ることを約束して、故郷に帰っていった。そのころ、王は家来のアレキスに対して、「メロスを助けるものも邪魔するものも排除して、メロスが自分の意志でセリヌンティウスを裏切る瞬間を見届けよ」と命じる。一方、王妃のフリューネもまた、メロスを裏切り者にしたて、この事件を王の人気を高める機会とすべく、陰謀をめぐらせていた。 そんな人々の思惑を知らぬまま、妹の婚礼を終えたメロスはシラクサの町に向かって走り始める。ただ、自分を信じてくれた男の信頼にこたえるために……。
80年代に多くのTVスペシャルアニメを送り出した「日生ファミリースペシャル」の一本で、世代を超えて読み継がれる太宰治の名作文学が原作。 古代ギリシャのシラクサ国。複雑な半生の境遇ゆえ人間不信に陥ったデイオニス王の施政は、残虐で冷徹なものだった。行きずりの少女グレーテを助けて王の行列を乱し、不興を買った青年メロス。彼は王に処刑されかかるが、迫る妹の結婚式に出席したいがため数日の猶予を願う。メロスは身代わりを買ってくれた親友セリヌンティウスを王の元に残して故郷に帰るが、一度拾った己の命の重みにその心は揺れ動き始めていた。だが……! 1981年2月に放映された作品で一月早く先行放映されたTVスペシャルアニメ『荒野の呼び声 吠えろバック』と同時に企画された作品。演出の勝間田具治は、全編をリアルな実写感覚で叙述。友情・勇気・信義と良心などの真摯な主題を、丁寧な筆致で手堅く語っている。